ビル・フリゼールの音楽は、うまく言葉に出来ない。曰く浮遊感、ジャンルを超越した……、確かにそうなのだけど、それだけじゃない。もっとドロドロした音楽に聞こえることもあるし、さわやかな風のようなときもある。僕にとってはギタリストの理想像です。
5月8日、コットンクラブでのステージでも、セロニアス・モンクや、ジャズの歌物を弾いたかと思うと、アメリカの古いフォークソングが登場する。複雑な和音やコード進行からフォークソングの素朴な音が混在するのだけど、なんの違和感もない。エフェクターも、ループマシンやオクターバーなどを多用しているけれど、まったく自然でギミックにならない。
ベースのトニー・シェー、ドラムのケニー・ウォルソンとときどき顔を見合わせながら、楽しそうに演奏しているのを見ているだけで、こちらも幸せな気持ちに満たされる。
ビル・フリゼールを知ったのは、多分30年くらい前になると思う。当時はフリゼルと表記していたかな。その後、フリッゼルと表記されたこともある。僕は「フリゼル」のほうがピンと来るのだけど……。
そのころ、僕はECMというジャズレーベルのレコードが気に入っていて、とくにギタリストのレコードは片っ端から聞いていた。代表的なのは、パット・メセニー、ジョン・アバークロンビー、テリア・リピダル、ラルフ・タウナー、ギターだけではないけれどエジベルト・ジスモンティかな。
このレーベルの音は、独特の透明感があって、一見(一聴?)冷たい感じだ。ヨーロッパ的、耽美派ともいわれて、いわゆるモダンジャズ好き(ジャズのことをダンモとかいう人たち)からは評判が良くなかったような気がする。キース・ジャレットもこのレーベルから出していた。
僕はジャズというよりも、ギターが好きだったので、その点からいうと、ECMのギタリストたちは、ロックやフォーク、民族音楽を取り入れた個性派ぞろい。ギターサウンドの宝箱みたいだった。
ビル・フリゼールのファーストアルバム「IN LINE」は、数曲だけアリルド・アンデルセンのベースが入っているものの、ほとんどの曲がソロ演奏。リバーブが深くかかった静かな曲ばかりで、ねむーいアルバムだった。あ、思い出した! 発売当時、このアルバムは買っていない。かなり後に、数枚のリーダーアルバムを聴いてから、カット盤を中古屋で入手したのだと思う。今では、リーダー作だけでなくビル・フリゼール関係のCDは100枚以上持っているようだ。おそろしくて数える気になれない……。
コットンクラブのサイトでちょっとだけ演奏の映像が見られます。
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/376.html