マリア・マルダーが来日。武蔵野スイングホールという小さなホールに見に行った。1973年に「オールドタイムレディ」というアルバムで衝撃的なデビューを飾ったマリア・マルダー。とくにエイモス・ギャレットの緻密且つ、艶っぽいギターソロが聴かれる「真夜中のオアシス」には、一部の、おませな高校生を夢中にした。ま、そのころはレッドツェッペリン、ディープ・パープルなどのハードロックが全盛で、マルダーのような大人の音楽を聴く高校生なんて、ごくごくマイナーな存在だったけれど。
マリア・マルダーのライブを聴くのは、2回目だ。最初は、たぶん76年ごろだと思う。ヴァンクーバーでだった。バックも豪華で、ギターにはエイモス・ギャレットも参加していた。3枚目の「スイート・ハーモニー」をリリースしたばかりで、そのツアーだったように思う。もう30年も前の話だ。
ステージに現れたマリア・マルダーは、あのころの3倍にふくらんでいた。もう60歳を越えているのだから、無理もないか……。ギター、ドラム、キーボードというトリオ編成のバック。ベースがいないので、キーボードがベースの音を出していた。そのためか、リズムにスイング感が足りなくて、がっかり。とくにドラムがちょっとバタバタしていたような……。グラミー賞にノミネートされるほどの人が、もうちょっといいバンドでくればいいのに、と正直思った。もちろん下手ではないのだけれど、一人一人のプレーにオリジナリティを感じさせず、なんかどさ回りバンドの悲哀が……。こんなこと言ったらマリア・ファンに怒られるかな。でも、それがアメリカのショー・ビジネスのきびしさなのであって、その中で生き残っているマリア・マルダーのしたたかさ、たくましさを感じさせる。
ステージは、大熱演だった。観客は、熱心なファンが多くて、マリアが曲を説明すると拍手が起こる。マリアもそれに気を良くしてか、だんだん乗ってきたようだ。歌声は、30年前よりも低くなったが、ドスがきいていて、迫力がある。ペギー・リーの「Black Coffee 」、エタ・ジェームズの「In My Girlish Days 」などブルーズが中心。エタは、チャック・ベリーよりも早くロックンロールをやっていたとかトリビアも満載。古いジャズへの愛着が伝わってくるし、研究をしているのがわかる。ブルースについての講義をどこかでやってもらったらいいのにな。
もちろん「真夜中のオアシス」もやったけれど、なにより素晴らしかったのは、アンコールにアカペラで歌ったゴスペル、「It's A Blessing」だった。
コンサート後にサイン会。30年前じゃ、考えられないよね。ぼくの前に並んだ人が、ソロデビュー前の「イーブン・ダズン・ジャグ・バンド」のレコードを持っていた。それを見たマリアは、「これ、いつ買ったの? えっ、20年前? すごい、パーフェクトなコンディションじゃない。あたしとおんなじね」なんてジョークを飛ばしていたけれど、そのあとすぐに、横にいた係の人に「パイナップルを用意してね、あたし、フラフラなの」と注文していた。
写真は新譜「ハート・オブ・マイン」。ボブ・ディランのラブソング集。1曲、エイモスがギターを弾いている。