9月2日、浅草、ギャラリー・エフに「おいしい・ね・いろ」を聴きにいく。「おいしい・ね・いろ」は現代音楽家の大谷安弘さんの企画で、東京の夏音楽祭の参加公演でもある。大谷さんとは、10年ほど前にいっしょにバンドをやっていた。大谷さんは、伝説のギタリスト高柳昌行スクール出身のギター弾きであり、コンピュータを使っての作曲、即興演奏を追求している人で、いま考えると、どうしてこんなすごい人といっしょに演奏してたんだろうと思ってしまう。ま、ノイズ音楽だったから、演奏者のバックグラウンドとは関係なく、自由に出来たおかげだろうな。
大谷さんとは、バンドの練習やライブのときぐらいしか会わなかったけれど、妙にウマがあった。といっても、おたがいに「ひきこもり」で、賀状のやりとりはあったものの、もう何年も会っていなかった。
「おいしい・ね・いろ」は大谷さんにとってもひさしぶりのライブ活動。古い(築200年ぐらい)倉を改装して作ったカフェ・ギャラリーを使って行われた。ぼくの行った日は、義太夫の田中悠美子さんとのデュオ演奏。
小さな倉の中で義太夫を聴くというのは、なんか決まりすぎというか、迫力に息がつまりそうだった。だしものは「娘道成寺」から始まり、田中さんは、だんだん伝統的奏法から脱して、スライドギターのように弦の上を化学糊の入れ物を滑らせたり、調弦を変えたり、激しさを増してくる。
大谷さんのマッキントッシュコンピュータから出るノイズがからんで、倉の中の闇にさまざまな映像が浮かぶようだった。
田中さんのアンコール、三味線寄席芸「櫓太鼓曲弾き」もすごい! 壮絶テクニックと笑いの爆発だった。
コンピュータ音楽というと、どうしてもあらかじめ楽譜を打ち込んでの自動演奏を思い浮かべるが、大谷さんの音楽は、コンピュータそのものを楽器にして、その場でコントロールしている。また、その場の音を取り込んだり、またカメラで取り込んだ画像に反応して、音を変化させるプログラムもあるそうだ。たとえば、お客さんの着ている服の色で、音色が変わったり、飲んでいるカクテルの色に音楽が反応するとか……。
演奏が終わって、大谷さんと話した。いろいろな愚痴(笑)を聞きながら、日本で前衛音楽を続ける大変さを思い知る。音楽祭に参加といっても、たいした援助があるわけでもないらしい。このライブのために会社も休職中。そうなんだよね、大谷さんは、会社を転々としながら、音楽活動をしている。覚悟がいるんだ、自分の道を進むのは。