彷書月刊2月号で、河内紀さんが昨年亡くなった祖母について文章を寄せてくれている。祖母内田静は、内田魯庵の長男・巌の妻だった。河内さんの文章には、祖母を訪ねてくださったときのことが書いてあった。とても心のこもったやさしい文章でうれしかった。
祖母のことはなかなか気持ちがまとまらず、うまく文章に出来ない。子どもの頃、両親は仕事が忙しくて、ほとんどの時間を祖母と過ごしたような気がする。ぼくが小学2年生のとき、一年間、両親はポーランドに出かけた。祖母は、ぼくのことが不憫に思ったのか、食べるものさえ与えておけばおとなしくしていると思ったのか、毎日のように、おやつは、大福と揚げせんべい一袋だった。おかげで一年間で太った、太った。川地民雄に似ているといわれたぼくは、まんまる顔のブーフーウーに……。帰国した両親が見分けがつかなかった。
モダンな人だったと思う。絵の好みは、あくまで抽象画で、具象や日本画などにはまったく興味を示さない。退屈な絵は「いかさないねえ」とばっさり切り捨てた。
ちょうど内田巌が書いた自伝「絵画青春記」を読んだところだった。そこには17歳だった祖母も登場する。短歌を投稿し、絵にも興味をもった人なつこいチャーミングな少女だった。
享年98歳。もう話を聞くことが出来ない。とてもさびしい。
東京に大雪が降った土曜日、鎌倉に出かけた。画家の小川百合さんの作品を見せていただけるということで、友人の編集者の方に誘っていただいた。鉛筆だけで描かれた細密画。そのすごさにただただ呆気にとられる。いわゆるスーパーリアリズムとは一線を画した、奥行きがある絵。本、図書館、劇場、どの作品も、描かれたものが持つ歴史が伝わってくるような気がする。
伺った日は、ホームレクチャーが催される日で、動物行動学の渡瀬良さんのお話を聞くことができた。テーマは「馬の心理学」。人間と馬の関係も奥が深い。
偶然なのだが、小川百合さん、百合さんのご主人、渡瀬さんは都立新宿高校の大先輩で、ほかにも新宿高校出身の方がいらしていた。劣等生のぼくは、終始縮こまっていた。
翌日曜日は、オーパ・ギャラリー『オリジナル燐寸ラベル&マッチ箱アート展 vol.5』へ。マッチ箱をつかったアート作品がずらりならんでいて、楽しかった。マッチ箱って、作家にとって魅力的なものなんだろうな。
昔、新宿のカトレアというマンモス喫茶店のマッチは、擦るといろんな色の炎が出て面白かったなんてことを思い出した。
写真は、保光敏将さんのマッチ2点と野球のマッチ(ごめんさない、作者の名前を忘れました)